今回は初心者向けに「異名同音」について解説しましょう。
かなり初歩的な理論になるので上級者の方には需要がないかもしれませんが、初心者の方はぜひ理解していただきたいと思います。
はじめに
異名同音とはこのように「#ド」と「♭レ」、「#ミ」と「ファ」など、音名は違っているが同じ音のことです。
音が同じだからと言ってどちらでもいいわけではなく、その場面によりどちらにするべきという決まりがあります。
譜面を書く人以外はあまり関係ないかもしれませんが、理論的にはとても大事なところです。
仕事の現場でもときどき異名同音がおかしい譜面を見かけることがあり、とても演奏しづらかったりします。
譜面を書くことがある方は、プレイヤーのためにもぜひマスターしていただきたいと思います。
音程
音程を説明するときに異名同音はとても重要です。
増4度と減5度は同じ音です。
同じ間隔なのにもかかわらず、「#ファ」か「♭ソ」によって度数は変わってきます。
数字の前に付く「増」や「減」などを除いた「4度」や「5度」などの数字は、単に音符を数えればいいだけです。
「ド」と「ファ」なら「ドレミファ」と数えて4度、「ド」と「ソ」なら「ドレミファソ」で5度ということになります。
そのとき「#」や「♭」は関係ありません。
「#」や「♭」は数字の前の「長」「短」「完全」「増」「減」などが変わるだけです。
短3度と増2度も同じ音程です。
数字は「ドレミ」で3度、「ドレ」なら2度ということになります。
今回の主旨とは関係ないですが、音程の見つけかたも簡単に説明しましょう。
たとえば「ミ」の増4度上の音は何かと言われたら・・・
1.「ミ」を置き、それを【Root】と仮定する。
2.増4度の「4」という数字だけを考え「ミファソラ」と4つ数える。
3.4つめの「ラ」の音を置く。
(この時点では増4度上の音は「♭ラ」なのか「♮ラ」なのか「#ラ」なのかわからなくてかまいません)
4.「ミ」を【Root】とするメジャースケールを想定し「ラ」の音がどうなっているかを考える。
(メジャースケール上の4つめの音は「♮ラ」ということがわかります)
5.メジャースケール上の4つめの音と【Root】との音程は完全4度なので、「ミ」と「ラ」は完全4度であるということがわかります。
それを増4度にするために、音符はそのままに「#」をつけて音程を広げる。
ということになります。
このようにメジャースケールを使って音程を見つける方法、そして短、長、完全などの音程についてはこちらの記事でくわしく解説しています。
ちなみに先ほどの増4度の「#ラ」を異名同音にすると「♭シ」になります。
このとき音程は減5度になります。
というわけで、ここでは異名同音による音程の違いを解説しました。
しかし実際に曲を作ったり演奏するときに音程を尋ねられたりすることはないでしょうから、あまり使う機会はないかもしれません。
キー&ダイアトニックコード
キーによって異名同音のどちらが正解かは決まってきます。
「Key=C」や「Key=G」など簡単なキーなら問題ないでしょうが、調号がたくさんついたキーではダイアトニックコードの中に「C♭△7」などと、あまり見慣れないコードが出てきます。
これは「Key=C♭」と「Key=B」のダイアトニックコードです。
鳴る音は全く同じです。
しかし同じだからといって混在させてはいけません。
これは「Key=C♭」でのコード進行です。
ダイアトニックコードではあっても「F♭△7」や「C♭△7」というのはなかなかピンとこないかもしれません。
「F♭△7」と書くより「E△7」のほうが簡単で弾きやすいでしょう。
だからといってこのようにダイアトニックコードを異名同音にしてしまってはいけません。
ダイアトニックコードを異名同音にしてしまうと転調したかのように見えてしまいます。
転調していない場合は、基本的に♭系のキーに#系のキーの中のコードが出てくることはありません。
コードの構成音
コードネームと音符が一緒に書いてある譜面の場合、構成音の記譜を間違うと演奏者はとてもとまどいます。
たとえばこのような場合です。
「Key=Am」の進行ですが、「E7」の記譜が違っています。
もちろん正解は下の「#ソ」を使うものです。
「E7」と表記してあるのに上の譜面のように「♭ラ」が使われていたりすると、プレイヤーとしてはとてもとまどってしまいます。
もちろん譜面通り弾けば音は同じなのでどちらでもいいわけですが、「ミ-♭ラ-シ-レ」と記譜されているのに「E7」というコードネームが目に入ってしまうととても違和感があります。
「E7」の記譜を間違える人はそうそういないとは思いますが、例えばこれではどうでしょう。
「Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ」の「Ⅴ」を裏コードの「♭Ⅱ7」に変えたものです。
この「D♭7」ですが、上のように記譜してあるものをよく見かけます。
しかし下の譜面のように「♭ド」を使うのが正解です。
ドミナント7thコードは【Root】と【7th】が短7度でないといけません。
「♭レ」と「♭ド」なら短7度ですが、「♭レ」と「♮シ」では増6度ということになってしまいます。
コードというのはsus4など特殊なコードを除いて、全て3度積みが基本になっています。
例えば「G♭7」を音符で書く場合だと・・・
まず【Root】を置きます。
次に臨時記号は考えずにただ音符を3度に積みます。
そこから臨時記号を考えるということになります。
音符だけを見るなら「♭ファ」より「ミ」のほうが読みやすいかもしれませんが、「G♭7」というコードネームをつけるなら「♭ファ」が正解です。
このように「#ミ」「#シ」「♭ファ」「♭ド」などが含まれるコードは要注意です。
もちろん「#ミ」と書くより「ファ」と書いたほうが簡単ですし、演奏すれば同じ音なので別にどちらでもよさそうですが、コードの構成音を正確に書くときはどちらでもいいということにはなりません。
ディミニッシュなども間違いやすいコードです。
例えば「Cdim7」の場合、このように記譜されることが多いかもしれません。
しかし「dim7」というからには、減7度の音程がなければなりません。
「ド」と「ラ」では長6度なので理論的には間違っています。
「ド」と「♭♭シ」が正解です。
ちなみに上の譜面では「#ファ」が使われていますが、これも【♭5th】である「♭ソ」が正解です。
ディミニッシュでも記譜するときの考え方は同じです。
まず【Root】を置いたら、音のことは考えずにただ音符を3度に積み、それから臨時記号を考えます。
メロディー
メロディーを書くときにも異名同音のどちらを使うかは重要です。
そのキーの中の音を使うだけなら問題はないでしょうが、一時的転調などによりキーの中にない音を使う場合には注意が必要です。
聴くとごく普通のメロディーですが、譜面を見るととても違和感があります。
これは「Key=C」のメロディーですが、ノンダイアトニックコードである「Fm7」が出てきます。
当然そこでのメロディーも「Key=C」の中にはない音が出てきます。
しかしこの譜面のように、コードが「Fm7」でメロディーに「#ソ」や「#ラ」が出てくることはありません。
もちろん弾けば同じ音なのですが、プレイヤーにとってはとても見にくい譜面です。
コードの構成音を見ても分かるとおり、「Fm7」は♭系のコードです。
このコード進行だと「Fm7」はサブドミナントマイナーなので、スケールはFドリアンを弾くことになります。
Fドリアンの「♭ラ」を「#ソ」と書くことは絶対にありません。
これも「A♭m7」はサブドミナントマイナーです。
「A♭m7」なので【3rd】は「♭ド」と書かなければなりません。
「シ」と書いたほうが簡単そうな気もしますが、それだとコードと合っていないということになります。
「A♭m7」と異名同音のコードである「G#m7」であれば、「♭ド」ではなく「シ」になります。
しかしサブドミナントマイナーはあくまでも「Ⅳm」なので、「Key=E♭」であればやはり「A♭m7」でなければなりません。
「G#m7」だと「#Ⅲm7」ということになってしまいます。
テンション
【9th】【11th】【13th】のナチュラルテンションはそのキーの中の音なので、異名同音を間違えることはないでしょう。
オルタードテンションはそのキー以外の音が出てくるので、どう記譜するか迷うところもあるかもしれません。
しかし、オルタードテンションについてはそれほど神経質になることはありません。
これは「C7」で使えるテンションです。
(メジャーコードにおける11thはテンションとして使われることはほぼありませんが、一応書いておきます。)
【9th】が「レ」なら、当然【♭9th】は「♭レ」、【#9th】は「#レ」が正しい書き方です。
しかし、Jazzの譜面などではこのように【#9th】を【♭3rd】で記譜しているものが多く見られます。
ではもう1つ違う例を見てみましょう。
「A♭7」の【9th】は「♭シ」なので【♭9th】はその半音下、ようするに「♭♭シ」ということになってしまいます。
しかし実際は「♮ラ」で記譜されている譜面のほうが圧倒的に多いでしょう。
例えばこのような感じです。
さいごに
今回は初心者向けに異名同音について解説しました。
もちろん鳴らせば音は同じなのでどっちでもいいと言ってしまえばそれまでなのですが、譜面を書くときはどちらが正しいのかということを知っておいたほうがいいと思います。
それをわかった上でなら、読みにくい「♭♭」や「##」を避けるためにあえて正解でないほうの異名同音を使うのもいいかもしれません。
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