今回はメロディーとコードネームだけが書いてある譜面、いわゆる「メロ譜」で演奏する方法を紹介します。
とは言っても弾き語りとか伴奏ではなく、メロディーも弾くことを目的とします。
これができるようになると、歌ものの曲をメロ譜だけでBGMのようにしたり、打ち合わせなどの時スケッチ程度に弾いて聴かせたりできるので、かなり便利だと思います。
そのようなメロディーも伴奏も同時に弾くような譜面はたくさん市販もされているのですが、難しいアレンジがされていたり、自分が思っているニュアンスとちょっと違うなと感じたりすることも多いです。
そこで自分のテクニックに合わせたアレンジにしたり、自分の思うとおりのニュアンスで弾いたりできるように解説してみたいと思います。
今回はいろいろとみなさんの知っているような曲を題材にしていきましょう。
あくまでも他の楽器はなにもなくピアノだけで演奏するという想定です。
キーはわかりやすくするためにオリジナルとは違って全部「C(ハ長調)」にしてあります。
例1:右手でメロとコードを同時に弾く
まずはこんな譜面を見てください。
これを見ると慣れないうちはこのように演奏してしまうことが多いのではないでしょうか。
右手でメロディー、左手でコードを4分打ちというパターンですね。
これでは左手の音域が低すぎてきれいではないので、もう少し音域を上げて転回して弾いてみます。
まあこれでも間違いではないし悪くはないのですが、こういう静かな曲においてはもうひと工夫したいですね。
ベースがいないうえにコードを転回させているので、これではルートがはっきりしません。
そのときに有効なのが「右手でメロディーとコードを同時に弾く方法」です。
そうすると左手でコードを弾く必要はなくなり、ルートだけ弾いていればじゅうぶんです。
これを聴いてみてください。
左手でコードを4分打ちしたものと比べてスッキリしました。
そして少しせつない感じになりましたね。
左手はオクターブでルートを弾いています。
ただの白玉なので簡単だと思います。
右手はコードネームの変わりめに1回だけコードを弾くのですが、メロディーをトップに持ってくるように転回させています。
この例の「F△7」や「Em7」などでは、コードをただルートから順番に押さえれば転回させなくてもたまたまメロディーがトップにきているのでいいのですが、「Am」や「Dm」「G7」などでは転回させないとメロディーの音がトップに来ません。
「Am」をルートから弾くと下から【ラ-ド-ミ】になりますが、メロディーが「ラ」なのでそれをトップになるように転回すると下から【ド-ミ-ラ】となります。
「Dm」も「G7」も同じようにメロディーがトップになるように転回してあります。
この弾き方をマスターするためには、メロディーの音がトップになるようにコードを瞬時に転回させなければいけないので少し慣れは必要になりますが、これができるとバッキングをするときにも非常に役立つのでぜひ挑戦してみてください。
その後は単音でメロディーを弾いているだけなのですが、その間もコードの響きが消えないようにコードの変わりめまでサスティンペダルを踏んでいます。
そしてコードが変わるたびに踏み直します。
【Dm7-G7】のところなどは1拍ずつで少し忙しいのですが、それでもサスティンペダルは踏み変えてください。
このように今回の「Part1」では左手をほとんど動かさないパターンを紹介していこうと思います。
「Part2」ではもっと左手でバリエーションをつける方法を紹介したいと思います。
このように右手はコードの変わりめに一度弾けば大丈夫です。
ですが一度でなければいけないわけではありません。
「F△7」を1拍めと3拍めに弾いてみました。
もっと大げさにしてみると・・・
こんなふうに全てコードにするのもありです。
これだと重厚で派手な感じになるので、曲調に合わせて臨機応変にやってみるといいでしょう。
基本的にはメロディーの音をトップにしてその下にコードをつけるわけですが、この例ではいくつか音を省略している部分があるのがわかると思います。
例えば「F△7」でメロディーが「ファ」のところは【△7th】の「ミ」の音を省いてあります。
メロディーが「レ」のところは「F△7」にたいして【6th】の音にあたるので「F6」に変更してありますが、【5th】の「ド」の音は省略してあります。
メロディーが「ド」になるところではルートを省略しました。
まったく省略しないで弾くとどうなるでしょうか。
トップが「ファ」と「ミ」になるところや「レ」と「ド」になるところが出てきてしまいました。
メロディーがはっきりわからなくなっています。
このようにトップに【2度】、ようするに「全音」や「半音」があるとメロディーがわかりにくくなってしまうのです。
そのようなときはすぐ下のコードトーンを省略しなければいけません。
最後の「ド」のところは別になにも省略する必要はないのですが、このほうがスッキリしそうなのでルートの「ファ」の音を省いてみました。
もちろんこれはルートは左手で弾いているという前提の話です。
同じように最初の「ミ」のところもルートは省略してかまいません。
このようにメロディーをトップにして演奏する方法は、ソロのジャズギターなどにもよく使われます。
たとえばこのような譜面を・・・
このように演奏したりします。
先ほど【2度】は使わない方がいいと言ったばかりですが、ここでは「G7」の2拍めや「E7」の4拍めにはメロディーとコードが【2度】を形成しています。
これはジャズなどではよくあるのですが、一般的な曲には使わないほうが無難だと思います。
ぶつかっていることをわかったうえで使うのであれば【2度】でも全く問題ありません。
ここまでの例だけではまだあやふやでよく理解できないかもしれませんが、いくつか例を見ていくうちにわかってくると思います。
例2:メロディーがない部分もコードは弾く
次の例を見てみましょう。
これもとくに難しいところはありません。
「C#dim7」で終わっているのは不思議な感じですが、次に続くためのコードなので今回は気にしなくても大丈夫です。
ではこれをメロとコード同時に弾いてみます。
これも左手はルートをオクターブで弾いただけです。
2小節めの「Em7」では右手からルートを省きました。
小節頭にコードを弾くだけではなく2回弾いていますが、メロディーのリズムを強調したいときにはこのように弾く方がいいでしょう。
3小節めの「Am7」ですが、メロディーが「ラ」なので【7th】である「ソ」の音とは【2度】を形成してしまうため省略しました。
ここもリズムを強調するためにコードを2回弾いています。
もちろんここも小節頭にコードを一度だけ弾くようにしても全然かまいません。
そうするとこのような感じになります。
これはもう好みの問題なので自分で合うと思ったものを選べばいいと思います。
そして【F-G】のところですがここにはメロディーがありません。
しかしコードは弾かなければなりません。
メロディーと区別するためにコードを低い音域にしました。
たとえばこれを高い音域で弾いてしまうとこのようになります。
これだとコードのトップの【ラ-シ】がメロディーに聞こえてしまいますね。
ピアノだけで演奏する場合はそのへんも考慮する必要があります。
2段目の「Em7」も1拍目は右手からルートを省きました。
メロディーが「ミ」になるところは先ほどの「Am7」のところと同じで【7th】の「レ」の音がメロディーの「ミ」と【2度】を形成してしまうので【7th】を省いています。
例3:コードトーン以外がメロディになっている場合
ここまではメロディーがほぼコードトーンの例を見てきました。
それだとコードを転回するだけで弾けるのでそんなに難しくはないと思います。
次はコードトーン以外にメロディーが来るような例を見てみましょう。
一度は聴いたことがあるのではないでしょうか。
メロ譜を見るだけで、コードトーン以外の音が1拍めに多く使われていることがわかると思います。
「A7」にたいして「ファ」は【♭13】もしくは【#5】の音です。
「Dm」にたいしての「#ド」は【△7th】の音になりますが、これは「レ」に進行するためのクロマチックアプローチと考えるのが自然です。
「C/E」も【9th】の「レ」の音から入っています。
「E♭dim7」もコードトーンではない「シ」の音から入っていますが、これは「E♭」にたいして【♭13th】の音になります。
しかしディミニッシュコードにおいてはあまりテンション表記をすることはありません。
全音上のディミニッシュの構成音がすべてテンションとして使えるのですがたいていの場合そのテンションをトップにもってきます。
そして6小節めの「Dm」は【11th】の「ソ」の音から、「G7」は【13th】の「ミ」の音から入っています。
ではこれをコードも入れて弾いてみましょう。
今回は曲調にも合うように1オクターブ上げて弾いてみます。
歌ものの伴奏ではなく、インスト曲を自由にアレンジして弾く場合はそういうのもありです。
ちょっと難しそうな譜面になってしまいました。
ひとつずつ見ていきましょう。
「C」はコードトーンから入っているので問題ないのですが、「A7」は【♭13】をトップに持ってくるコードを弾かなければなりません。
コードネームは「A7」としか書いてありませんが、メロディーが【♭13】なので全体的に見てコードは「A7(♭13)」ということになります。
メロディーの「ファ」をトップになるように並べるとこのようになります。
しかしこれではトップで「ファ」と「ミ」が半音でぶつかってメロディーがはっきり聞こえません。
なのでメロディーのすぐ下の「ミ」は省略して、ルートの「ラ」も左手で弾いているので省略します。
そうするとかなりすっきりしました。
同じように「C」も【9th】にあたるメロディーの「レ」の下にコードトーンを並べると、トップが「レ」と「ド」でぶつかってしまうので「ド」は省略します。
「E♭dim7」もメロディーの下にコードトーンを並べるとトップがぶつかるので、「ラ」の音を省略します。
先ほど言ったとおりテンション表記はしていません。
「Dm」も【11th】であるメロディーの「ソ」の下にコードトーンを並べると、【3rd】と【11th】がぶつかってしまうので【3rd】を省略しました。
同じように「G7」は【13th】の「ミ」の下にコードトーンを並べると、【5th】と【13th】がぶつかるので【5th】を省略し、さらにルートも省略しました。
左手はコードが変わるたびに1回だけルートを単音で弾いたり、ルートと【3rd】を弾いたりしています。
このようなバラードの場合はそれほどリズムを強調する必要もないので、これぐらいでじゅうぶんだと思います。
まとめ
というわけで今回は「メロ譜だけで演奏する方法」について紹介しました。
簡単にまとめると
1.コードの変わりめでメロディーの音がトップになるようにコードを弾く
2.トップに【2度】が形成される場合はすぐ下の音を省略する
3.左手は必ずルートを弾く
4.メロディーが休符のときに弾くコードはトップノートがメロディーに聞こえてしまわないようにする
「Part1」ということで左手は単純なものにしましたが、これでもちゃんとメロディーとハーモニーは伝わるのでぜひ実践してみてください。
「Part2」ではもう少し左手のバリエーションを増やしていこうと思います。
今回の解説動画はこちら↓