今回はルバートの曲で伴奏するときに、ピアニストがどのようなことを考えてどのように演奏しているのかを紹介しましょう。
音楽理論などとは違って「これが正解!」などいうものはないのですが、現場でいろいろ演奏して培ってきたことを伝えていければと思っています。
ここではピアノで説明しますが、ギターなど他の楽器で伴奏するときも有効なのでぜひ参考にしてください。
ルバートとは?
さて、まずルバートとはどのようなもののことでしょうか。
譜面では「rubato」または「tempo rubato」などと表されます。
これはもともとは「盗まれた時間」などという意味なのですが、ポップスなどでは「テンポにこだわらず自由な演奏をする」といった意味で使われています。
この講座ではソリストまたは歌手が自由なテンポ、いわゆるルバートで演奏したときにどのように伴奏するかを説明したいと思います。
たとえばこのような感じです。
元はこのような譜面だとします。
それを譜面通りインテンポで演奏するとこのような感じになります。
ほんの一例ですが、これをソリストがルバートで演奏したときにピアノで伴奏するとこのような感じになります。
音は譜面のままなのですが、リズムが全く違います。
それをいろんなサンプルを使って説明していきましょう。
サンプル1-1
ではさっそくサンプルで説明していきましょう。
まずはこれです。
【Am】の簡単な曲です。
バイオリンのメロディーをピアノで伴奏するといった想定です。
ではルバートにしてみましょう。
基本的にルバートでの伴奏は、おおまかに言うと二つに分かれます。
伴奏が先にいったりリズムを出したりしてメロディーをリードする方法と、メロディーを待ってそれに合わせてついていくフォローという方法です。
これは最初からこの部分はルバートで演奏すると決まっているなら、ソリストや歌手と前もって話し合っておけばよいでしょう。
ライブなどでは打ち合わせなしに歌手がいきなりルバートで歌い出したり、なんてこともあるので臨機応変な対応が必要になります。
リードとフォローもずっとどちらか一つというわけではなく、フレーズによって「ここはリード、ここはフォロー」などと変わるので、ある程度慣れが必要になります。
では、それを踏まえてピアノの譜面を見てみましょう。
譜面上はかなり難しそうですが、音をよく見るとほとんどコードの構成音ぐらいしか弾いていないのでそれほど難しくはありません。
まず「Am」でメロディーが【ラ-シ-ド】と動くわけですが、この「ド」のときに同時にコードを出したいわけです。
ここでは早めのアルペジオを弾いています。
しかしテンポがルバートですから、バイオリンがどのようなタイミングで「ド」を弾くかわかりません。
このようなときは目で見ながら合わせるしかありません。
身体や弓の動きでなんとなく予想はできるはずです。
それでもクォンタイズをかけたようにぴったり合わせるのは難しいでしょう。
このようなときは、コードをばらして弾くとぴったり合ってなくてもかなりごまかせるはずです。
これだとずれているのが目立ちますね。
このほうがそんなにずれたという感じには聞こえないと思います。
これは今回のいろんなサンプルで多用しているので、注意して見てみてください。
では解説にもどりましょう。
1小節目の「Am」はアルペジオをかなり早く弾いています。
これは両手を使って弾くとそれほど難しいわけではありません。
このへんのテクニックはこちらの動画で紹介しています。
「はったりテクニック」の解説はこちら↓
しかしルバートにおいてこのようなテクニックはいつでも弾くことが可能なわけではありません。
ここはメロディーが伸びているので、アルペジオを弾いてもよかったわけです。
メロディーが動いているときにこのような早めのアルペジオを弾くと、ぶつかってあまりいい結果は得られません。
2小節目の「G」もアルペジオにしましたが、これもメロディーが伸びているからです。
最初は少し動いてはいますがこのぐらいであれば大丈夫でしょう。
3小節目の「F」のところは、メロディーが8分音符で動いていて合わせづらそうなので、2分音符にしました。
3拍目のコードはメロディーに2拍ウラがあるので合わせやすいと思います。
4小節目もメロディーが伸びていますが、その中で「E7」をピアノが弾かないとバイオリンは先に進めません。
逆に言うとピアノが「E7」を弾くまで先に進むことはないので、余裕をもってゆっくり弾けば大丈夫です。
5小節目の2分音符、そして6小節目の4分音符は目と耳で合わせていくしかありません。
こういうところは伴奏で細かい音符を弾かないほうが無難です。
「F△7」ではメロディーが伸びるのでそこでアルペジオを弾き、7小節目の「E7sus4」を先に弾いています。
ここもピアノが1拍目に「E7sus4」を弾かないとバイオリンは2拍目の「レ」を弾きにくいでしょう。
そして最後はアルペジオで終わってみました。
サンプル1-2
それでは同じメロディーでまた違うアプローチをしてみます。
今度はちょっと音を増やしてみました。
1、2小節目は先ほどと同じですが、3小節目で少し動いてみました。
先ほどはメロディーの2拍目ウラの「シ」の音を待ってから3拍目のコードを弾きましたが、これは逆にピアノがリズムを出して「シ」の音を誘う感じです。
コードネームは「F」ですが、弾いている音は「ミ」を多用していて「F△7」になっています。
コードを弾いている楽器はピアノだけという想定なので、このへんは自由にやってかまいません。
5小節目もピアノが8分音符でリズムを出してリードしていく感じになっています。
6小節目も同じようにピアノリードのようですが、「Am」「G」「F」とコードの頭はバイオリンに合わせるように弾いています。
あとは先ほどのサンプルと同じで最後のアルペジオだけ少し違いますが、このへんは自由にやれば大丈夫です。
サンプル2
ではまた違うサンプルでやってみましょう。
次はこんな感じにしてみました。
「キーがC」で少しブルージーな雰囲気です。
クラリネットとピアノの組み合わせです。
3連系の曲ということがわかりますね。
最後の小節の「♭ミ」は「C」というコードにたいする「ブルーノート」です。
「ブルーノート」の解説はこちら↓
ではこのメロディーをルバートで演奏された場合のピアノ伴奏のサンプルです。
サンプルなのでかなり大げさにルバートしています。
3連系の曲の場合は、ルバートでもやはり3連系のフレーズで伴奏するほうが自然です。
例えばこれを聴いてみてください。
3連系のメロディーなのに16分音符で受けてみました。
ちょっと違和感がありますね。
やはりこちらのほうがしっくりくるのではないでしょうか。
それではまたサンプルに戻りましょう。
1、2小節目はピアノが3連系のフィルを入れていますが、どれもメロディーが伸びているところなので邪魔はしていません。
3小節目の「F」もフィルを入れてもいいのですが、ちょっと変化をつけるためにあえてコードだけを弾きました。
どの小節も1拍目頭にコードを弾いていますが、これはメロディーに合わせています。
このようなメロディーの場合は先にコードを弾かず、メロディーがくるのを待って合わせるのがよいでしょう。
最後はオクターブのトレモロで終わりました。
このトレモロというテクニックも覚えておくといろんなところで使えていいと思います。
サンプル3-1
ではまた違うサンプルです。
「キーはDm」の曲です。
編成はギターとピアノにしてみました。
ではこれをルバートでやってみましょう。
これはメロディーの合間にかなり多めにフィルを入れてみたパターンです。
各小節の頭はメロディーに合わせて弾いています。
そしてメロディーが伸びているところでフィルを入れます。
フィルはそれぞれちゃんと解決していったん終わっていなければ、ギターがいつ次のメロディーを弾けばいいのかわからなくなってしまいます。
ギターが入りやすいように「さあどうぞ」といった感じで渡してあげることが大事です。
生演奏では目線も送ってより入りやすくすることが多いです。
お互いの音をちゃんと聴けるミュージシャンならフィルを弾いてる最中に次のフレーズにいったり、どうぞと渡しているのに入ってくれない・・・などといったことはないと思います。
最後のコードは分析すると「Dm△9」といった感じですが、このへんも1人なので自由に弾いてかまいません。
サンプル3-2
では同じメロディーでまた違うパターンです。
これは今までと違ってあえて1拍目に弾いていません。
メロディーが一旦落ち着いてからコードを両手で弾いてみました。
こういうのもちょっとさびしげでいいと思います。
1、2小節目が音が少なく静かな感じだったので、3小節目では派手にコードを弾いてみました。
もちろん3小節目も静かな感じでやるのもありだと思います。
最後はまたアルペジオを使って終わっています。
まとめ
というわけで今回はルバートにおける伴奏を紹介してみました。
いろんなパターンがありますが、どれもメロディーあってのものなのでよくお互いの音を聴きながら演奏することが大事です。
お互いのフレーズを邪魔しないようにしましょう。
DTMなど打ち込みでやる場合は、まずメロディーをルバートで弾いてから伴奏を合わせるのがいいと思いますが、どっちにしろ微調整は必要になるでしょう。
DTMでルバートをやっている人はかなり少ないようなので、挑戦してみるのもいいと思います。
今回の解説動画はこちら↓