はじめに
今回も#1に続き、ちょっとマニアックなリハーモナイズを紹介しましょう。
これをマスターすると、たとえばこのようなことや
このようなことができるようになります。
あまりポップスなどでは聴かないと思いますが、ネタとして持っておくと面白いと思います。
特別な名称などはなく、「短三度進行」とか「Chord Progression Of Minor3rd」などと呼ぶことが多いようです。
使えるコードの見つけかた
では説明していきましょう。
まずこれを見てください。
この上段の譜面、ようするに「C」が2小節なのですが、これを下段のようなコード進行にしてしまおうというテクニックです。
ルートの進行が【C-E♭-F#-A】と短三度進行になっていることがわかると思います。
ルートだけ書きだしてみましょう。
コードが「C」のときにこのようなルートの進行にします。
これは「Cdim7」の構成音になっています。
そして「C」というコードがついているところを、この構成音4つをそれぞれルートとするコードに置き換えるのです。
コードは4つになっていますが、これはあくまでも「C」というコードを機能はそのままに、同じ雰囲気を持つコードに置き換えたということです。
同じコードが続くときなどに使用すると、雰囲気をそんなに変えることなく、しかもいろんな調が混ざったような不思議な効果を与えることができます。
理論的に分析すれば、1拍ずつ転調ということになるのですが、このハーモナイズの場合は、コードは「C」のまま少し違うカラーのサウンドを足したものと考えます。
違うコードでも見てみましょう。
コードが「F」のときはまず「Fdim7」を考えます。
そして、その構成音をそれぞれルートとするコードを見つけます。
このようになります。
「F」というコードがついているところを【F-A♭-B-D】というコードに置き換えてしまうということです。
このようなことが可能になる理由は、#1を参考にしてください。
注意すべきこと
このハーモナイズは、あくまでもコードにたいして行うものです。
メロディーのことは考えずに行います。
ということは、メロディーがすでにある曲をリハーモナイズするときは注意が必要です。
例えばこのようなメロディーで「C」というコードがついている場合です。
今までと同じようなリハーモナイズをするとこのようになります。
かなりメロディーとぶつかっているのがわかると思います。
今回のリハーモナイズは、メロディーがまだついていない段階で行うのがいいでしょう。
たとえばこのように、コードに合わせてメロディーを作るほうがリハーモナイズが生きてくると思います。
ドミナント7thコードのリハーモナイズ
このリハーモナイズは「ドミナント7thコード」に比較的多く使われます。
「ドミナント7thコード」の場合、このような考え方もできます。
まず「G7」に(♭9th)を付加します。
転回してルートをオクターブ下げると、上に「G#dim7」ができます。
「G#dim7」の構成音である「#ソ」と「レ」は減5度の間隔を持つので、トライトーンとなります。
「ドミナント7thコード」の【3rd】と【7th】がトライトーンにあたるわけですが、この【#ソ-レ】は「E7」の【3rd】と【7th】、そしてその裏コードにあたる「B♭7」の【7th】と【3rd】になります。
「G#dim7」の残りの構成音である「シ」と「ファ」もトライトーンです。
【シ-ファ】は「G7」の【3rd】と【7th】、そしてその裏コードにあたる「D♭7」の【7th】と【3rd】になります。
というわけで「G#dim7」は「G7」「B♭7」「D♭7」「E7」の代理として使えるということです。
そうなると「G#dim7」を構成音に持つ「G7(♭9)」も、トライトーンが共通である「B♭7」「D♭7」「E7」の代理として使えるということになります。
この「G7」「B♭7」「D♭7」「E7」のルートを並べてみましょう。
これは「Gdim7」の構成音になっています。
ようするに「G7」をリハーモナイズするときは「Gdim7」の構成音を考え、それぞれの音をルートとする「7thコード」によって置き換えることが可能ということです。
ではコードを変えて考えてみましょう。
「E7」をハーモナイズする場合はどうでしょう。
まず「Edim7」を考えます。
「Edim7」の構成音は「E」「G」「B♭」「D♭」です。
それをルートとする「7thコード」を作ります。
「E7」は「G7」「B♭7」「D♭7」でハーモナイズしてよいということがわかります。
コード進行の中で使ってみる
では実際に使ってみましょう。
このようなコード進行を今回のテクニックを使ってリハーモナイズしてみましょう。
【G7-C△7】というとても簡単なコード進行です。
この「G7」をリハーモナイズしてみます。
先ほどの例にしたがって「G7」のハーモナイズに使える4つのコードを見つけ、それをつなげました。
【G7-B♭7-D♭7-E7】と短三度ずつ上行する進行です。
これにテンションを入れてもかまいません。
それぞれのコードに【#9】を付加してみました。
これまで上行にしか使っていませんでしたが、下行にも使えます。
では、このコード進行を元に下行を使ったリハーモナイズをしてみましょう。
「B♭7」のリハーモナイズに使えるのはこの4つです。
これをこのようにハーモナイズできます。
「D♭7」から始めて短三度で下行しています。
元が「B♭7」だからといって、必ずしも「B♭7」から始めなければいけないわけではありません。
4拍めは「B♭7」の裏コードである「E7」なので「E♭△9」に半音できれいに解決しています。
△7コードに使う
このリハーモナイズは「△7」にも使えます。
この「F△7」をリハーモナイズしましょう。
これもいままでと同じように、元のコードのルートと同じディミニッシュコードを考えます。
今回は「F△7」なので「Fdim7」です。
そしてその4つの構成音それぞれをルートとする「△7コード」を4つ見つけます。
「F△7」「A♭△7」「B△7」「D△7」ができました。
これを使ってリハーモナイズしてみましょう。
元のサウンドからかなり変化しましたがどうでしょう。
感じ方は人それぞれなのでなんとも言えませんが、元の調性感をギリギリ保ちつつ、豊かな色彩感が生まれているような気がします。
応用編
ではこれを応用して、リハーモナイズとは少し違う使い方を紹介しましょう。
このようなコード進行でアドリブに使ってみます。
「Em」だけが8小節続いています。
調号を見るとキーも「Em」なので、「Eエオリアン」「Eハーモニックマイナー」「Eマイナーペンタトニック」などを使ってアドリブをするのが一般的な解釈でしょう。
でもそれではありきたりなので、今回のリハーモナイズをアドリブに使ってみます。
サンバっぽいリズムにしてみました。
臨時記号が多くややこしいので、調号はやめて「Key=C」で書いてあります。
ベースを聴いてもらえばわかるとおり、コードはあくまで「Em」だけです。
なぜこんなフレージングが可能かというと、次の譜面を見てください。
「Em」なのでこれまでと同じように「Edim7」を考え、その構成音をルートとするマイナーコードを4つ導き出します。
この4つのコードを使ったということです。
分析するとこのようになります。
まず、ふつうに「Em」のフレーズから入ります。
ここでの「♭シ」はブルーノートという解釈になります。
2小節めは「Gm」のアルペジオのようなフレーズから入り、「B♭m」的なフレーズになります。
そして似たような音型で「C#m」っぽいフレーズに変わっていきます。
5小節めでまた「Em」的なフレーズに戻り、6小節めで「B♭m」、7小節めで2拍めから「Gm7」のアルペジオを弾きながら、4拍めの途中で「Em」に戻って、そのまま終わっています。
今回のテクニックを使うだけでも、このような変化をつけることができます。
簡単に言ってしまえば、スケールアウトということになります。
しかしただ闇雲にアウトするのではなく、自分が何を弾いているか理解しながらアウトしているので、いつでもインサイドに戻ることができます。
蛇足になりますが、いったんこのようにアドリブで弾いたあと、それに合わせて音を足してみるのも面白いときがあります。
リズムのアタックなどにブラスを加えてみました。
最初からこのようにアレンジしたかのようになっていますが、アドリブに合わせてあるのでちょっと変わったリズムになっています。
たまにはこのようなアレンジ方法もいいのではないでしょうか。
さいごに
今回は少しマニアックなリハーモナイズを紹介しました。
これはフランス近代音楽やジャズなどには使われていますが、ポップスやロックにはあまり使われていません。
あまり一般的ではないということは、このリハーモナイズが好きか嫌いかは人によってかなり分かれるということなのでしょう。
しかし、リハーモナイズのテクニックの1つとしてマスターしておくと、コード進行にかなりの幅を持たせることができると思います。
ぜひ一度使ってみてください。
今回の解説動画はこちら↓