はじめに
今回はシアリング奏法と言われるものを紹介しましょう。
シャーリング奏法などと言われることもあります。
現場ではピアノの譜面にただ単に「シャーリング」とだけ書いてあったりもします。
このようなピアノの奏法のことを指します。
このような奏法を「ブロックコード」と呼ぶこともあります。
ようするにメロディーをハーモナイズするわけですが、これは突き詰めるとかなり難しい話になってしまいます。
このあたりの理論を研究してみたいという方は【編曲#22から24のハーモナイズPart1、2、3】で詳しく解説しているので参考にしてください。
今回は初心者でも簡単にシアリングスタイルっぽいことができるようになることを目標に、「簡単シアリング奏法」と題して解説したいと思います。
シアリング奏法とは
シアリング奏法とは、George ShearingがGlenn MillerなどのJazzオーケストラのサウンドを参考に編み出したと言われています。
ものすごく簡単に言ってしまうと、
「メロディーをオクターブで弾き、その間にコードをはさむ」
ということになります。
オクターブのメロディーの間にどのようなコードをはさむかということが大事になってきます。
簡単ハーモナイズ例 1
では具体的に作ってみましょう。
このようなメロでやってみましょう。
コードは「C△7」です。
まずはメロをオクターブにします。
単音よりもメロディーが強調されます。
そして次はコードトーンをハーモナイズします。
この例では「C△7」の構成音ということになります。
メロディーがこれらの4つの音になっているところを「C△7」でハーモナイズするわけです。
ここで注意したいことが一つあります。
それはメロディーに【Root】の「ド」が使われているところです。
メロディーが「ド」のところを「C△7」でハーモナイズすると、このようにトップに【短2度】ができてしまいます。
これはメロディーとすぐ下の音が半音でぶつかることになり、あまりいいサウンドとは言えません。
このようなときは「C6」でハーモナイズします。
これはシアリング奏法の代表的なスタイルです。
メロディーが「ミ」のところは「C△7」でハーモナイズしています。
もしコードがただの「C」ならば「C6」でも「C△7」でもかまわないのですが、今回はコードが「C△7」なのでハーモナイズも「C△7」にしました。
最後は「C△9」にしてありますが、このあたりも自由にやって大丈夫です。
さて、問題は「C△7」の構成音以外のハーモナイズです。
この例では「レ」と「ファ」です。
結論から言うとこれはディミニッシュでハーモナイズします。
これもまたシアリングスタイルの特徴的なところです。
この例ではメロディーが「レ」と「ファ」のところをディミニッシュでハーモナイズしています。
このようにディミニッシュは転回形がありません。
メロディーが「レ」のところは「Ddim7」、「ファ」のところは「Fdim7」と書きましたが、構成音は全く同じです。
ディミニッシュでハーモナイズするとなぜ自然に聞こえるのか説明しましょう。
まずこれを見てください。
「Ddim7」の構成音は「G7(♭9)」の構成音と【Root】以外は全く同じです。
ここでのコード「C△7」のドミナントである「G7」のトライトーンは「シ」と「ファ」です。
このトライトーンは「G#dim7(Ddim7)」にも含まれています。
ようするに「Ddim7-C△7」「Fdim7-C△7」という進行は、どちらも「G7-C」というドミナントモーションの代理なのです。
自然に聞こえるのは当然というわけです。
簡単ハーモナイズ例 2
では違うメロディーでやってみましょう。
先ほどの例と違ってコードが動いています。
「Key=Am」です。
まずはメロディーをオクターブにします。
それぞれのコードにたいするコードトーンをハーモナイズします。
コードネームは「Am」「Dm」としか書いてありませんが、それぞれ「Am7」「Dm7」でハーモナイズしました。
4小節めの「Am」はメロディーは「シ」ですが、これはコードトーンではありません。
しかしこの「シ」はどの音にも動いていないので、このようなときは「Am」でハーモナイズします。
この「シ」の音は「Am」にたいして【9th】なので、コードは「Am」に【9th】が含まれるコードになります。
ここではさらに【6th】を入れてみました。
もちろん【7th】を入れてもかまいません。
そしてコードトーン以外をハーモナイズします。
ここでもすべてメロディーの音を【Root】とするディミニッシュでハーモナイズしました。
ついでにベースとドラムを少し足してみました。
いかにもそれっぽいサウンドになっていると思います。
ここで使われたディミニッシュをそれぞれ見てみましょう。
「Ddim7- Am7」は「E7-Am7」の代理
「Gdim7- Dm7」は「A7-Dm7」の代理
「Edim7- Dm7」は「A7-Dm7」の代理
「Cdim7- E7」は「B7-E7」の代理
ということになります。
簡単ハーモナイズ例 3
ここまではメロディーが全てそのキーの中の音でした。
キー以外の音が出てくるメロディーも見てみましょう。
このようなメロディーでやってみましょう。
「Key=C」なので、シャープがついている音はすべて「キーの中にはない音」ということになります。
これまで通りにまずメロディーをオクターブにします。
コードトーンを4声でハーモナイズします。
コードネームはトライアドですから、4声にするためには【6th】か【7th】を付加する必要があります。
マイナーコードの場合は【6th】が使えるのは【Ⅱ】のマイナー、この例では「Dm7」だけです。
【Ⅲ】や【Ⅵ】のマイナーには【7th】をつけるのが普通です。
【Ⅱ】か【Ⅲ】か【Ⅵ】かを考えるのがめんどうな人は、マイナーコードは全て【7th】でハーモナイズすると思っておけば楽です。
ではキーの中にはない音をハーモナイズしてみましょう。
選択肢はいろいろあるのですが、ビッグバンドなどの場合、このようにハーモナイズすることが多いです。
コードが「C」ならば、そのドミナントコードである「G7」を使うということです。
たとえば「♭ミ」は「G7」から見ると【♭13th】です。
というわけでここでは「G7(♭9,♭13)」でハーモナイズしました。
「ラ」は「G7」における【9th】の音になるので、「G9(#5)」でハーモナイズしてみました。
このあたりの理論は【編曲#22から24のハーモナイズPart1、2、3】でかなり深く解説しているので、そちらを参考にしてください。
編曲 #22【メロディーの音を全部コードに!】ハーモナイズ【Part1:オルタードドミナントアプローチ・ディミニッシュアプローチ・ドミナントアプローチ】 - わちゃぴの音楽教室
編曲 #23【メロディーの音を全部コードに!】ハーモナイズ【Part2:クロマチックアプローチ・スケールアプローチ】 - わちゃぴの音楽教室
編曲 #24【メロディーの音を全部コードに!】ハーモナイズ【Part3:5つのアプローチ まとめ&実用例】 - わちゃぴの音楽教室
今回は初心者でもすぐできる「簡単シアリング奏法」というのがテーマなので、このようにしてみましょう。
コードトーン以外の音は、すべてディミニッシュでハーモナイズしました。
これだと理論を考えることなくすぐ作れるのではないでしょうか。
簡単にできるわりには、ちゃんとシアリングスタイルに聞こえると思います。
簡単ハーモナイズ例 4
このようにテンポが速いフレーズを全部コードにすると、弾くのがかなり難しくなってしまいます。
そのようなときには、フレーズのところどころだけをコードにするのがよいでしょう。
コードが変わるところやアクセントがあるところをコードにすると効果的です。
全ての音をコードにするよりも、このほうがスピード感も失われないのでかっこいいと思います。
まとめ
1. メロディーをオクターブにする。
元のメロディーのオクターブ下に足します。
これによりメロディーが強調されます。
2. コードの構成音をそのコードでハーモナイズする。
メロディーの音がトップになるように、4声でハーモナイズします。
コードがトライアドの場合も4声でハーモナイズします。
「△7」「6」「m7」「m6」「7」などにするわけですが、それはダイアトニックコードに従います。
例えば「Key=C」でコードが「F」なら「F△7」か「F6」ですが、「G」なら「G7」になります。
「m6」が使えるのはメジャーキーの【Ⅱ】のマイナー、もしくはマイナーキーのトニックだけです。
3. コードが「△7」でメロディーが【Root】のときは【6th】コードでハーモナイズする。
トップが半音になるのを避けるためです。
半音でぶつかるとメロディーがわかりにくくなってしまいます。
4. それ以外の音は全てディミニッシュでハーモナイズする。
ディミニッシュだけでかなりかっこよくなります。
どうしてもディミニッシュが合わないと思う場合は、その他のハーモナイズを試してみましょう。
「オルタードドミナントアプローチ」、「ドミナントアプローチ」、「クロマチックアプローチ」などいろいろ選択肢はあります。
さいごに
今回は簡単シアリング奏法を解説しました。
ハーモナイズにはいろんな方法があり全てマスターするのは難しいですし、時間もかかります。
しかし今回の方法だとすごく簡単にそれっぽいサウンドが作れるので、ぜひ試してみてください。
かなりJazzっぽいサウンドにはなりますが、ポップスでもイントロや間奏など部分的に使うとおしゃれでかっこいいと思います。
今回の解説動画はこちら↓