はじめに
「ジプシースケール」と呼ばれているものはいくつかあります。
その中には「ジプシーマイナースケール」「ジプシーメジャースケール」などと呼ばれるものもあったりします。
クラシック音楽などで定義されているスケールとは違い、民族的なスケールはいろいろな解釈があり、はっきり定義できないのが現状です。
1つのスケールに複数の呼び方があったりもするのでちょっとややこしいのですが、サウンドで覚えてしまえば呼び方は何でもいいと思います。
例えばこのスケールは「メジャーペンタトニックスケール」というのが一般的でしょう。
しかし、他にも「スコティッシュスケール」または「スコティッシュペンタトニックスケール」「ヨナ抜き音階」「呂旋法」などと、その音楽の種類やシチュエーションによって様々な呼び方がされます。
同じように、今回紹介する「ジプシースケール」と言われているものにも、それぞれ違う呼び方があります。
4つのジプシースケール
ではまず代表的な4つを見て下さい。
全部「C」を【Root】として並べてみました。
この4つとも「ジプシースケール」と呼ばれることがあります。
上のふたつは【Root】の「C」にたいして【♭3】である「♭ミ」が含まれるので、マイナー系のスケールということがわかります。
下のふたつは【Root】の「C」にたいして【♮3】である「ミ」が含まれるので、メジャー系のスケールということがわかります。
「Cm」だと少々わかりにくいので、調号のない「Key=Am」で並び替えてみましょう。
下のふたつは「Am」の【Ⅴ】である「ミ」から並べるとわかりやすくなります。
このようになります。
コードをつけてみましょう。
上のふたつは「Am」のときに使うスケールで、下のふたつは「E」のときに使うスケールです。
4声にするとこのようになります。
しかしジプシーっぽいサウンドを出すなら、コードは「Am」はトライアド、「E」は「E△7」ではなく「E7」にしたほうがそれっぽくなります。
もちろん、メロディーにはスケールの音を全て使ったほうがいいサウンドになるでしょう。
この4つとも「ジプシースケール」と呼ばれることがあるのですが、それぞれ別の呼び方があります。
1番上は「ハンガリアンマイナースケール」と呼ばれるものです。
2番めはあまり一般的ではないですが、「エオリアン#4」と呼ばれることがあります。
3番めは「ダブルハーモニックスケール」と呼ばれますが、これは「ハンガリアンマイナースケール」を5番めの「ミ」の音から並び替えたものです。
「アラビックスケール」と呼ばれることもあり、その名前のとおり中近東っぽいサウンドにも聞こえます。
4番めは「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」と呼ばれるものです。
「フリジアンドミナントスケール」と呼ばれることもありますが、これもあまり一般的ではないでしょう。
この中で「ハンガリアンマイナースケール」と「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」については、他の動画で解説しているので今回は省きます。
ハンガリアンマイナースケールの記事はこちら↓
ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウの記事はこちら↓
というわけで今回は2番めの「エオリアン#4」と3番めの「ダブルハーモニックスケール」を紹介します。
ダブルハーモニックスケール
「ジプシースケール」と言われるもので最も一般的なのは、1番めの「ハンガリアンマイナー」とそれを5番めの音から並び替えた「ダブルハーモニックスケール」です。
というわけで、まず「ダブルハーモニックスケール」を見ていきましょう。
「E」を【Root】とします。
コードが「E」のときに使うスケールなので、「E」というコードにたいしてどのような構成音になっているのか見てみましょう。
特徴的なのは【♭9】と【♭13】です。
そして【△7】が使われているのもちょっと変わっています。
先ほども言いましたが、コードは「E△7」ではなく「E」のほうがそれっぽいので、「Eワンコード」でサンプルを作ってみましょう。
「ファ」と「#ソ」の1音半の間隔や、「#レ」の音が特徴的です。
この「#レ」を「♮レ」にすると「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」になります。
「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」でもコードが「E」だけだと、わりとジプシーっぽく聞こえる気もします。
「ハンガリアンマイナースケール」の5番の音から並び替えたものが「ダブルハーモニックスケール」なので、「Aハンガリアンマイナースケール」と「Eダブルハーモニックスケール」は全く同じ音で構成されています。
たとえば「Aハンガリアンマイナースケール」だけを使ってメロディーを作っても、コードに「E」を使えば、その部分は「Eダブルハーモニックスケール」と解釈されます。
ではこの二つのコードを使って、ちょっとしたメロディーを作ってみます。
このスケールでは「E7」の【7th】である「レ」が含まれていないので、【E7-Am】というドミナントモーションは作れません。
かといってスケールの音で作られる「E△7」ではサウンド的にいまいちなので、ここでは「E」のトライアドにしてみました。
このぐらい単純なコード進行でも、じゅうぶんジプシーっぽい曲は作れると思います。
あまりややこしいコード進行にすると、ジプシーっぽさは薄れるかもしれません。
エオリアン#4
ではもう一つ、「ジプシースケール」と呼ばれることがある「エオリアン#4」を紹介しましょう。
これも「A」を【Root】にして見てみましょう。
名前にエオリアンとついていることからもわかるように、対応するコードはもちろん「Am」です。
これは文字通り、「エオリアン」の4番めの音を半音上げたものです。
「ハンガリアンマイナースケール」の7番めの音を半音下げたものとも考えられます。
使えるテンションは【9th】しかありません。
そして「ハンガリアンマイナー」と違うのは、【△7th】ではなく【m7th】の音が含まれていることです。
「Am」を4声にするなら「Am△7」ではなく「Am7」ということです。
ではまた「Am」ワンコードでメロディーを作ってみます。
これもまた「ハンガリアンマイナー」とは違ったジプシーっぽさがあります。
最初の2小節を「エオリアン#4」と「ハンガリアンマイナー」で聴き比べてみましょう。
「ソ」と「#ソ」が違うだけで、かなり雰囲気が変わって聞こえるのがわかると思います。
この「エオリアン#4」も「Am」に使うスケールと説明しましたが、「Am」のドミナントにあたる「E7」がこのスケールからは作れません。
「ミ」の音から並び替えてみるとわかるように、「E7」の【3rd】である「#ソ」がないので、「Em」もしくは「Em△7」しかできません。
ドミナントモーションを使うなら、「エオリアン#4」だけでメロディーを作るのではなく、「E7」のときは「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」などのドミナント系のスケールを使うほうがよいでしょう。
これは「Am」で「エオリアン#4」、「E7」で「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」を使った例です。
スケールが途中で変わっているわけですが、それほどテイストが変わった感じはしないと思います。
いろいろなスケールを使う
ここまで「ジプシースケール」をいくつか紹介してきましたが、なにもずっと一つのスケールを使い続けなければならない、というわけではありません。
ここでは短い曲の中にいろんなスケールを使ってみます。
ちょっとサルサ風な感じにしてみました。
このように「ジプシースケール」だからと言って、必ずしもジプシーミュージックにしか使えないわけではありません。
スケールを分析するとこのようになります。
同じ「Am」でも「ハンガリアンマイナー」を使ったり「エオリアン#4」を使っています。
最後は「メロディックマイナー」にしてみました。
「Dm」は「ドリアン」にしてあります。
「E」は「ダブルハーモニック」と「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」にしてあります。
このように、ジプシーっぽい曲を作りたいときでも「ジプシースケール」だけではなく、コードに合わせて自由にいろんなスケールを組み合わせるとよいでしょう。
少し違うテイストを入れることで変化をつけられるので、メロディーにも幅が出ると思います。
さいごに
今回は「ジプシースケール」と呼ばれているもの中から2つを紹介しました。
別のコンテンツで紹介してある「ハンガリアンマイナースケール」「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウスケール」と合わせて、ぜひジプシーっぽい曲に使ってみてください。
普通のポップスのイントロや間奏だけをジプシー風にする、といった使い方も面白いと思います。
まずは実際に音を出していろいろ試してみてください。
今回の解説動画はこちら↓