今回はクリシェと言われるものを紹介したいと思います。
クリシェを使いこなせるようになればアレンジの幅が広がるため、紹介するさまざまなパターンをぜひ取り入れてみてください。
クリシェとは?
クリシェとは本来「常套句」というような意味ですが、音楽の中で使うときには「コード構成音の一つを半音または全音で動かし変化をつける」という方法のことを指します。
同じコードが長く続くときにちょっとした変化をつけるのにすごく有効な方法です。
例えばこれを聴いてみてください。
有名なイントロです。
最初の2小節を見てもらうとわかるように、半音ずつ下がっている音がありますね。
これが典型的なクリシェです。
このようにクリシェには典型的なパターンがいくつかあるのでそれを紹介していきたいと思います。
今回はキーを「C(ハ長調)」と「Am(イ単調)」で説明していきます。
どちらも白鍵だ けで弾けるキーです。
(※ただしAmのときは#ソになる場合があります)
そしてそのキーの中にはダイアトニックコードがいくつかありますが、今回はトニックコード(ハ長調でのCというコード、イ短調でのAmというコード)のときに使うクリシェを紹介していきます。
Cで使えるクリシェ
1.ド-シ-ラ-ソ①
ではまず最初のパターンです。
これはコードがCのルート、つまり「ド」の音がスケールにそって下りていくパターンです。
ここでいうスケールとは「Cメジャースケール」のことです。
ようするに「ドレミファソラシド」というスケールですね。
そのなかでコードの1番上の音が「ド-シ-ラ-ソ」と下りていきます。
コードの譜面を見てもらうとわかるように、下3つの音はずっと変わらず「ドミソ」を弾いています。
ではサンプル曲に使ってみましょう。
まずはクリシェを使わないサンプルを聞いてみてください。
コード進行はとても単純なものにしました。
「Dm7」には【9th】を加え、最後の「C」には【7th】を入れず【9th】だけを加えたので「Cadd9」というコードになります。
2小節パターンでリズムを刻んではいますが、4小節ずっとコードが変わらないのは少し退屈に聞こえるかもしれませんね。
このようなときクリシェが役に立ちます。
では聞いてみてください。
先ほどと同じリズムパターンですが、コードが「C」のところだけクリシェを使ってみました。
一応コードネームをつけるとこのようなことになりますが、そんなに難しく考える事はありません。
「ドミソ」という和音の「ド」の音だけを「ド-シ-ラ-ソ」と下げればいいだけです。
2.ド-シ-ラ-ソ②
こんなパターンも考えられます。
先ほどはコードのトップノートが下がるパターンでしたが、これはコードの1番下の音が同じく「ド-シ-ラ-ソ」と下がるパターンです。
ではサンプルです。
コードトーンを3つにしてありますがこれでもじゅうぶんですね。
コードの上の音と下の音、どちらを動かすかは自由です。
3.ド-シ-ラ-シ①
では次のパターンです。
これは「ド-シ-ラと下がってまたシに戻る」パターンです。
サンプルだとこんな感じです。
このパターンもわりとよく聞くのではないでしょうか。
ひとつめのものと組み合わせて「ド-シ-ラ-シ--ド-シ-ラ-ソ」なんてパターンもいいかもしれませんね。
4.ド-シ-ラ-シ②
このクリシェラインをまたオクターブ下げてみましょう。
サンプルにするとこうなります。
5.ド-シ-ラ-シ③
リズムパターンは自由でいいのですが例えばこんな風にしてみるのも面白いです。
ラテン音楽でよく聴くモントゥーノ風のパターンです。
どこかで聴いたことあるような感じですね。
使っている音はまったく同じでもリズムや弾き方を変えるだけで多くのバリエーションが得られます。
6.ソ-ラ-シ-ラ①
では次のパターンです。
これは【5th】の音を動かしています。
メジャースケールにしたがって「ソ-ラ-シ-ラ」といったん上がって最後に下がるパターンです。
これをこんなサンプルにのせてみましょう。
まずはクリシェを使わないものを聴いてください。
やはり同じコードが4小節続くと少し退屈に聞こえてしまうかもしれません。
後半のコード進行は【ピアノエンディングPart3「コードを付け足しておしゃれに」】で紹介した【F△7 -Fm7-Cadd9】というものにしてみました。
全体に4分打ちにしましたが、3連系のメロディーなのでそれを感じながら弾いてください。
それではクリシェにしてみましょう。
同じコードが続くところも変化がついていい感じになりましたね。
一応コードネームはつけましたが、「ドミソ」と弾いて「ソ」の音を動かしているだけなので難しくはないと思います。
7.ソ-ラ-シ-ラ②
もう少しリズムも動かしてみましょう。
4分打ちではなく3連系のリズムを多めにきざんでみました。
4分打ちだけよりは弾んで楽しい感じになったような気がします。
使っている音はさきほどのものと全く同じですがところどころ【5th】の「ソ」の音を省いています。
8.ソ-#ソ-ラ-#ソ①
では次は今までとはちょっと変わったパターンを紹介します。
これを聴いてください。
これまではメジャースケールの音だけを使っていましたが、これは「#ソ」という黒鍵の音が入っています。
しかし「ドミソ」と押さえた「ソ」の音が半音で上がってまた下がってるだけですから全く難しくはありません。
これをサンプルにのせてみましょう。
まずは4分打ちだけのパターンです。
メジャースケールの音だけとはまた違ったおしゃれな感じに聞こえます。
9.ソ-#ソ-ラ-#ソ②
では先ほどと同じようにちょっとリズムを動かしてみましょう。
これはコードを分解しながらところどころアルペジオにしたりしてみました。
「1小節目と3小節目」、「2小節目と4小節目」は同じコードですが微妙に弾き方が変わっています。
でもこのぐらいラフな感じでもいいと思います。
(もちろん決まったフレーズパターンをきっちり繰り返さなければいけない曲もたくさんありますが)
10.ソ-#ソ-ラ-♭シ
さて、いまのパターンは半音で上がっていますが「ラ」までいくとまた下がっています。
もう一つ半音上がって「♭シ」までいくとどうなるのでしょう。
このようになります。
「♭シ」まで上がったときのコードは「C7」になります。
「△7」や「m7」と違って「7」だけが書かれているコードは「ドミナントコード」と呼ばれます。
このコードは不安定で「5度下」のコードに進もうとする性質があります。
「C7」の場合は「F」や「Fm」に進行するのがもっとも安定します。
これを聴いてみてください。
このように次のコードが「F」のときには「♭シ」まで上がっていくクリシェは非常に効果的です。
しかし「C7」にいったあとにまた「C」が続くようなときはあまり美しい進行とは言えないので注意が必要です。
Amで使えるクリシェ
11.ラ-♯ソ-ソ-♯ファ①
さて次はマイナーコードによく使うクリシェを紹介してみましょう。
まずはこれを聴いてみてください。
これはマイナーコードのルートの音が半音で下がってくるパターンです。
数々の名曲でも非常によく使われてます。
これをサンプルにのせていきましょう。
まずはクリシェを使わないパターンです。
テンポが遅いので、2小節同じコードが同じリズムパターンで続くとちょっと飽きるかもしれません。
これを先ほどのクリシェにしてみましょう。
変化がつきました。
12.ラ-#ソ-ソ-#ファ②
これは2拍ずつ下がるパターンでしたが1拍ずつ下がってもかまいません。
例えばこのような感じです。
1小節目と2小節目の4拍目の音が少し違いますが、このへんは自由に動かしても大丈夫です。
1拍ずつ動かすパターンはこのぐらいの遅めのテンポではいいですが、あまり速いテンポだとちょっといそがしく聞こえてしまうかもしれません。
13.ラ-#ソ-ソ-#ファ③
次はまたちょっと今までとは違うパターンです。
これは今までと違って「ピアノの左手」や「ベースの音」が半音ずつ下がるクリシェラインを作っています。
これはとくに「ベースラインクリシェ」などと呼ばれます。
冒頭で紹介した有名なイントロもこのパターンになります。
今回はトップノートもベースと同じ動きを作ってみました。
クリシェラインがより強調される感じがしますね。
14.ミ-ファ-#ファ-ファ
では次のパターンです。
これはマイナーコードの【5th】の音が半音で上がって下がるものです。
ここでは「Am」における【5th】の「ミ」の音が「ミ-ファ-#ファ-ファ」と動いています。
聴いたことあるような感じですね。
コードネームにすると「Am(#5)」などという見慣れないものになってしまいますが、弾いてる音自体はけっして難しいものではありません。
これをこんなサンプルにのせてみます。
まずはクリシェを使わないパターンです。
このぐらいテンポがあってロックっぽいものだと、2小節同じコードが続いても特に退屈には感じませんしじゅうぶんかっこいい気もしますが、これにクリシェを使ってみましょう。
これはこれでかっこいいのではないでしょうか。
もちろん1コードのままでもかまいませんが、クリシェを使うという選択肢が増えるというのはいいことです。
このパターンはこんな曲にも使われていますね。
一度は聴いたことあるのではないでしょうか。
特殊な使用例
最後にもう一つだけ紹介します。
これはちょっとクリシェといっていいかどうか微妙なところですがコードトーンの一つを動かすといった意味では同じです。
まずこれを聴いてみてください。
これも有名な曲です。
コードネームをつけるとちょっと難しそうですが、よく見ると動いてる音はコードの中の1音だけです。
「C」だけではなく「Dm」も「G7」も動いています。
これをクリシェを使わずに弾いてみるとこのようになります。
なんとなく味気ないですよね。
クリシェを入れるとこうなります。
ぐっとポップでおしゃれになりました。
クリシェがこの曲のイメージを決定づけてるといってもいいぐらいですね。
このようにコードの中の1音を上がったり下がったりするだけでなく、このように自由に動かしてみるとコード進行に幅が出て面白いと思います。
まとめ
今回は1コードが続く場面にちょっとした変化を与えるクリシェというものを紹介しました。
トニックだけでなく全てのコードにクリシェラインを見つけることができるので研究してみてください。
そして今回紹介したパターン以外にもいろんなパターンで上がったり下がったりと動かすことができますので、ぜひ自分なりにいろいろ工夫してみてください。
ただしメロディーとぶつかっていないかを慎重に見極めなければなりません。
自分が少しでも気持ち悪いと思ったらやめておくほうが無難です。
しかし覚えるためには最初は無理矢理にでも使ってみてください。
マスターすればアレンジの幅が広がるはずです。
今回の解説動画はこちら↓