今回は「m6」というコードとマイナーコードにおける【6th】を使ったフレーズについて紹介します。
かなりピンポイントですが、覚えるとちょっとかっこいいフレーズが作れるので最後まで見てみてください。
いつものようにキーは「Cメジャー」、または「Aマイナー」で説明します。
メジャーキーでのm6
ではまず「m6」というコードがどんなものなのか見ていきましょう。
これが「Key=C」のダイアトニックコードです。
今回は「m6」の考察なので、まずこの中のマイナーコードだけを見てみます。
「Key=C」の中には「Ⅱ」の「Dm7」、「Ⅲ」の「Em7」、「Ⅵ」の「Am7」の3つがあります。
この3つを「m6」にしてみましょう。
これを見るとわかるように「Em6」と「Am6」は黒鍵の音、ようするにCメジャースケール以外の音が入っています。
ということはこれを使った時点で転調ということになるので普通は使いません。
試しに無理矢理入れてみましょう。
【C△7-Em7-Am7-G7】と【C△7-Em6-Am6-G7】というコード進行をつなげてみました。
かなり違和感があるのがわかると思います。
「Dm6」はすべてCメジャースケールの音です。
なので「Ⅱ」はいつでも「m6」にしてかまいません。
ちょっとこれを見てください。
【6th】の「シ」の音は【13th】と同じです。
しかしどちらでもいいわけではありません。
ちゃんと使い分けがあるのです。
「Dm7」にこの「シ」の音を入れたときは【13th】と解釈しますが【7th】の音がない【レ-ファ-ラ】というトライアドに「シ」を入れたときは【6th】と解釈します。
今回は「m6」の説明なので【7th】は入ってない前提で進めます。
「Ⅱ」は「m6」にしてもいいはずなのに【Ⅱ-Ⅴ】などは「Ⅱ」は必ずといっていいほど
「m7」になっています。
これにはちゃんと理由があります。
「Key=C」だと【Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ】は【Dm7-G7-C△7】になります。
これは【サブドミナント-ドミナント-トニック】という進行です。
本来「Key=C」のサブドミナントは「F」です。
そして「Dm7」は「F」の代理コードなのです。
「Dm7」は【レ-ファ-ラ-ド】、「F」は【ファ-ラ-ド】なので代理として使えるのも当然ですね。
一方「Dm6」はどうでしょう。
比べてみるとどちらがよりサブドミナントの「F」に近いかは一目瞭然ですね。
こういう理由で【Ⅱ-Ⅴ】の「Ⅱ」を「m6」にすることはほとんどありませんが、音が外れるわけではないので使って悪いわけではありません。
ちょっと比べてみましょう。
やはり「Dm7」のほうが進行としては良さそうですね。
構成音的には「Dm6」はサブドミナントよりドミナントの「G7」に似ています。
そうなると「m6」はなかなか使う機会がなさそうですが、このような進行はどうでしょう。
この進行だと「m6」がとてもいい感じに聞こえます。
「C△7」の【7th】である「シ」と「Dm6」の「シ」が共通なので「ソプラノペダルポイント」みたいでいいですね。
マイナーキーで使う
実は「m6」はマイナーキーの中で使われることのほうが多いかもしれません。
まず3つの「Aマイナースケール」それぞれのダイアトニックセブンスコードを見てみましょう。
では「ナチュラルマイナースケール」です。
これは「Cメジャースケール」のダイアトニックセンブンスコードを並び替えたものと同じなので、Cメジャーキーのときと同じく「m6」に変えていいのは「Dm7」だけです。
「Am」や「Em」に【6th】を加えるとスケール以外の音が入ってしまいます。
次は「ハーモニックマイナースケール」です。
ここで出てくるマイナーは「Am△7」と「Dm7」です。
「m7(♭5)」に【6th】を付加することはありません。
「Am」と「Dm」をそれぞれ【6th】にしてみましょう。
「Dm6」は構成音がすべてハーモニックマイナースケール上にあるので使えますが、「Am6」に出てくる「#ファ」はスケール以外の音なので使えません。
最後に「メロディックマイナースケール」です。
この中でマイナーコードは「Am△7」と「Bm7」になります。
その2つを「m6」にするとこのようになります。
これはどちらも構成音が全てスケール上に含まれているので使えます。
しかし「Bm6」が使われることはほとんどありません。
3つのマイナースケールを紹介しましたが、「Key=Am」で使われるコードはこれがほとんどです。
3つのマイナースケールに出てくるコードが混在していますが、自然に聞こえるはずです。
【マイナースケール】の記事でも説明しています↓
トニックには「Am7」が多く使われますが、「Am△7」にすることもあります。
マイナー感をより強めたいなら「Amのトライアド」が1番いいでしょう。
その他のコードはほとんどナチュラルマイナースケール上のコードになります。
ただし「Ⅴ」だけは「ソ」が「#」になり、「E7」になります。
「Em7」ではドミナントモーションが作れないので、「E7」にして終止感を強めるためです。
結局、違和感なく「m6」を使うには「Ⅳ」のマイナーである「Dm」だけになります。
コード進行で使ってみましょう。
「m7」とはまた違う雰囲気でかっこいいと思います。
「Am」にも「Dm」にも「E7」にも「シ」の音が共通して使えるのがいいですね。
Ⅳマイナーコード上のフレーズに6thを使う
ここまでコードを「m6」にしてきたわけですが、もちろんフレーズにも使えます。
たとえばこんな感じです。
「Dm6」であえて【7th】の「ド」の音はほとんど使わず【6th】である「シ」の音を多用してみました。
【7th】の音を使うのとはまたひと味違って面白いと思います。
「シ」は「Am」における【9th】の音でもあるので「Am」「Dm」に共通して使うとおしゃれです。
左手は【Root】【3rd】【5th】しか弾いていませんしコードも鳴っていませんが「Dm6」のサウンドはじゅうぶん出ていると思います。
このようにコードを「m6」にするだけではなく、フレーズに【6th】の音を積極的に使うアプローチも試してみるといいでしょう。
トニックマイナーに使う
では次はトニックマイナーに【6th】を使ってみましょう。
先ほど3つの「Aマイナースケール」を見ましたが、トニックである「Am」にたいする【6th】の音、つまり「#ファ」が含まれるのは「メロディックマイナースケール」だけです。
では「メロディックマイナー」の曲にしか使えないのでしょうか。
実はそんなことはなくて、このようなコードの中で使うことがあります。
マイナーキーでよく使われるコードとして先ほど紹介した一覧の中でトニックだけを「Am6」に変えたものです。
「Bm7(♭5)」「Dm7」「F△7」ではナチュラルの「ファ」が使われているのに「Am6」にだけ「#ファ」を入れるというのはこれまであまりないパターンです。
メジャーキーの場合、そのキーのメジャースケール以外の音が入った場合は転調したと解釈されます。
とくにトニックの「△7」にそのキー以外の音が入ることはありません。
しかしマイナーキーの場合はメジャーキーと違って対応するスケールが3つありました。
先ほど紹介した「ナチュラルマイナー」「ハーモニックマイナー」「メロディックマイナー」です。
というわけでトニックが「Am7」になっても「Am△7」になっても「Am6」になっても、それは転調ではなくあくまでもAマイナーというキーの中でスケールを交換したと解釈します。
余談になりますが、「ジャズマイナースケール」というのを聞いたことがあるでしょうか。
「メロディックマイナースケール」は上行と下行の音が違うスケールです。
「ジャズマイナースケール」は「メロディックマイナー」の上行の音を同じように下行にも使うスケールです。
文字通りジャズによく使われるスケールです。
「ナチュラルマイナースケール」「ハーモニックマイナスケール」「メロディックマイナースケール」のように、クラシックの楽典に出てくるような正式なスケールではありませんが、覚えておくとよいでしょう。
今回紹介しているようなトニックに【6th】を入れるようなときにも「メロディックマイナースケールの上行形」などと言うより「ジャズマイナースケール」という解釈だと楽だと思います。
では実際にコード進行に使ってみましょう。
「Dm7」や「E7(♭9)」には「♮ファ」が使われているのですが「Am6」になると突然「#ファ」になります。
でもあまり違和感なく聴けると思いませんか?
ジャズなどではよく聴かれるサウンドです。
これをかっこいいと思うかどうかは人それぞれですが、簡単にジャズっぽいサウンドが得られるので便利だと思います。
ではこんなのはどうでしょう。
トゥンバオに使ってみました。
「Am6」になった途端、ちょっとハっとする感じがあるのではないでしょうか。
本来なら上の段のように「#ファ」ではなく「♮ファ」が普通なのでしょうが、あえて【6th】である「#ファ」を使ってみました。
最初は違和感があるかもしれませんが、使っているうちに慣れてかっこいいと思うようになるかもしれません。
もちろん好みは人それぞれですからこれも無理に使う必要はありませんが、こんな手法もあるということだけでも覚えておくといいと思います。
トニックマイナー上のフレーズに6thを使う
トニックマイナーを「m6」にしたならフレーズにも【6th】の音を使うほうがより雰囲気が出て面白いと思います。
スケールは「ジャズマイナースケール(メロディックマイナー上行形)」を使うのですが、別にスケールの音を全部使わなければいけないわけではありません。
コードを「m6」にするだけでその独特なサウンドは出せるのでフレーズに必ずしも【6th】を入れる必要はないのですが、入れたほうがさらに「m6サウンド」を強調できます。
ちょっとサンプルでやってみましょう。
ボサのリズムにしてみました。
「Dm9」では「Dドリアンスケール」、「E7」は【♭9】【♭13】を加えたので「Eハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウ」を使いましたが、「Eオルタードスケール」でもかまいません。
そして「Am6」のところで【6th】である「#ファ」を多用してみました。
4小節めは【#ファ-#ソ】と動いてるのでいかにも「ジャズマイナースケール」といった感じですね。
このサンプルでは「Am6」が何度も出てきて「#ファ」を多用しましたが、ここまで多く使わなくてもその雰囲気は出せます。
たとえばこんなのはどうでしょう。
これは有名なスタンダードのコード進行なのでキーもよく演奏される「Gm」にしました。
「F7」と「G7」では「オルタードスケール」、「D7」には「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウスケール」を使っています。
そして「Gm6」の中で1音だけ【6th】である「♮ミ」を弾いていますが、これだけでもじゅうぶんインパクトはあると思います。
このように何小節かに1回出てくるトニックマイナーにワンポイントで少し【6th】を入れるだけでかなり面白いのではないでしょうか。
別に毎回トニックを「m6」にする必要はありません。
「m7」にしたり「m△7」にしたり自由に遊ぶのもいいでしょう。
まとめ
というわけで今回はかなりピンポイントな内容でしたが、「m6」のコードとフレーズの使い方を紹介しました。
では簡単にまとめましょう。
1.メジャーキーに使える「m6」は「Ⅱ」のマイナーコードだけ
2.マイナーキーに使える「m6」は「Ⅰ」のトニックマイナーと「Ⅳ」のマイナー
3.トニックマイナーを「m6」にするとき使うスケールは「ジャズマイナースケール」
トニックマイナーに使うと慣れないうちは違和感があるかもしれませんが、ぜひ試してみてください。
少しジャズっぽいような独特なサウンドが簡単に出せるようになります。
アドリブなどでもここぞというときに使えると効果的だと思います。
今回の解説動画はこちら↓