装飾音はいろんな楽器で使われます。
文字通りフレーズを装飾するための音符です。
装飾音にもいろいろあるのですが、今回はその中でもポップスやロック、ジャズなどで特によく使われる「短前打音」について解説したいと思います。
はじめに
「短前打音」とはたとえばこのようなものです。
斜線の入った小さい音符で記譜します。
いきなり話はそれますが、「短前打音」があるということは「長前打音」というものも存在します。
このように斜線が入ってない小さい音符が「長前打音」です。
これは下段のように演奏します。
「長前打音」が付いた音符(この例だと「ミ」です)の半分の音価の音符を付け足して演奏するのです。
これはバロック音楽などによく使われたもので、ポップスなどでは出てくることはまずないでしょう。
最初から下段のように記譜すればいいわけですから、知識としてこんなものあるといった程度でいいと思います。
それでは「短前打音」に話を戻しましょう。
これを演奏する場合、細かく言うと2種類のタイミングが考えられます。
たとえばこのような譜面があったとします。
これを実際に弾くときはまずこのようなもの。
装飾音が拍のアタマになるように弾きます。
もう1つは装飾音が拍の前に来て、本来の音符が拍のアタマにくるものです。
クラシックなどでは細かく決められていますが、ロックやポップス、ジャズなどでは「演奏者におまかせ」というものがほとんどです。
曲やフレーズに合うと思ったほうで演奏すればOKです。
装飾音符の長さも演奏者が自由に決めましょう。
これは短めにしてみた例です。
では少し長めにしてみましょう。
これはもう好みなので、どちらでも大丈夫です。
テンポなどによってもかなり変わってくると思います。
ブルースなどによく使われる和音への短前打音
ブルースなどでよく使われるフレーズにこのようなものがあります。
市販の譜面なども、このような記譜で書かれることがほとんどだと思います。
このような記譜だとこう弾いてしまいそうです。
「#レ」を先に弾いてあとで「ミ-ソ」の和音を弾く、という方法です。
しかし実際にはこのように弾くことが多いです。
先に「#レ-ソ」という和音を同時に弾いてから「#レ」が「ミ」に動きます。
その間も上の「ソ」は押さえっぱなしにします。
このように弾いたほうがブルースっぽくなるのでおすすめです。
代表的な短前打音
よく使われる代表的な「短前打音」です。
半音上下から、全音上下から、そして半音2つ使って上下からの6つをあげてみました。
装飾音を2つ使うものは特に「複前打音」と呼ばれますが、わりとよく使われるので一緒に紹介します。
「複前打音」の音符には斜線がつかないことが多いです。
「複前打音」にも全音を使うことはあるのですが、半音のほうがよく使われるので、今回は半音2つ使うものだけにします。
同じフレーズに半音と全音の装飾音をつけてみましょう。
キーは「C」で、コードもトニックの「C」です。
半音だとちょうど【♭3rd】【♭5th】というブルーノートになるので、すこしブルージーな感じに聞こえます。
全音だとどちらもダイアトニックな音なので、自然で素直に聞こえる気がします。
「Jazzyな感じなら半音」「FolkやPopな感じには全音」といった感じに使い分けるのもいいかもしれません。
全音の短前打音における注意
半音はどの音につけてもかまわないのですが、全音は少し気をつけなければいけないことがあります。
Cメジャースケールの音に全音上下からの装飾音をつけてみました。
ところどころ黒鍵、ようするにCメジャースケール以外の音が入っているのがわかると思います。
これはやはりちょっと外れて聞こえてしまいます。
比べてみましょう。
【上段】
【下段】
かなり大げさにつけてみました。
上段は、すべてダイアトニックではない装飾音です。
下段は、ダイアトニックになるように半音に変えたものです。
やはり上段は、ちょっとおかしな感じに聞こえるのではないでしょうか。
よほど意図がないかぎりやめておいたほうが無難でしょう。
実際に使ってみる
では1つのフレーズにいろいろな装飾音をつけてみましょう。
このような簡単なフレーズです。
2小節め最後の「ミ」の音には全音下からの装飾音がついていますが、その他の装飾音は半音上下からになっています。
「ファ」と「ド」には全音上の、他は半音上下の装飾音をつけました。
これは、「E7」の「レ」と「Am」の「ミ」には半音2つの「複前打音」を使ってみました。
装飾音の付けかただけでかなりのバリエーションが得られるのがわかったと思います。
オルガンでの使用例
ここまではピアノでやってきましたが、オルガンなどにもよく使われます。
このようなフレーズでやってみましょう。
これだと少し味気ない気がします。
このように装飾音をつけることにより、いかにもオルガンらしいフレーズになったのではないでしょうか。
スパニッシュなフレーズ
フラメンコギターなどのスパニッシュなフレーズには、上からの「短前打音」がよく使われます。
これに装飾音をつけてみましょう。
かなりそれっぽい感じに聞こえます。
もちろん上からだけではなく、下からの「短前打音」も「複前打音」も使われます。
たとえばこんな感じに、スパニッシュなフレーズを上から引っかけて弾くと、チックコリアっぽくなったりもします。
さいごに
装飾音の中でもとくに「短前打音」と「複前打音」について解説してきました。
ちょっとした一工夫で、フレーズがおしゃれになったり華やかになったりします。
今回はサンプルということでかなり大げさに使ってきましたが、ここぞというときに使うとかなり効果的です。
楽器は問わないので、ぜひいろんなフレーズで試してみてください。
今回の解説動画はこちら↓