「天才たちのワンフレーズ」シリーズ、今回はMulgrew Millerのフレーズを紹介します。
Mulgrew Millerは、デューク・エリントン・オーケストラやジャズ・メッセンジャーズなどで活躍し、リーダーアルバムもたくさん出している名ピアニストです。
素晴らしいテクニックを持ち、ビバップ系のフレーズと新しめのフレーズをミックスした、とても面白い演奏を聴かせてくれます。
残念ながら、2013年に57歳の若さで亡くなっています。
今回のフレーズ
ではまず今回のフレーズを聞いてみてください。
これは『Blues Again』という曲でのアドリブソロです。
この曲は「B♭のブルース」なのですが、このフレーズはその最後の4小節です。
今回はこの2小節めの「F7」でのフレーズを紹介しましょう。
かなり速い6連符などがあり、このまま弾くのは難しいのですが、いろいろ応用できるのでぜひ覚えてください。
フレーズ分析
ではフレーズを細かく見ていきましょう。
これは「Key=B♭」のドミナントである「F7」でのフレーズです。
このようなフレーズです。
16分音符と3連符、6連符が混ざったフレーズになっています。
3、4拍めは臨時記号がたくさんあって難しそうですね。
ではわかりやすくするために調号を「Key=C」にして臨時記号で分析していきましょう。
度数を書くとやはり3、4拍めがすごいことになってしまいます。
しかし今回は度数をそれほど気にしなくて大丈夫です。
まず1、2拍めを見てみましょう。
【13th】から入って【5th-#11th】と弾きます。
そして【5th】からスケールを【Root】まで上行するだけです。
こう説明すると難しそうですが、弾いてみると簡単なフレーズです。
「スケールを上行」と言いましたが、この1、2拍めのフレーズはどのようなスケールになっているのでしょうか。
9th系が入っていないので特定はできませんが、【#11th】と【13th】が入っているので「Lydian7th」か「コンディミ」ということになります。
では3、4拍めを見てみましょう。
このようなフレーズです。
使われている音を順番に並べるとこのようになります。
これは「F# Dorian」です。
「F7」で「F# Dorian」を使うというのは、ちょっと普通では考えられません。
スケールアウトと言ってしまえばそれまでなのですが、ちゃんとした理由があっての「F# Dorian」なのです。
元のコードは「F7」です。
それを裏コードの「B7」にします。
「B7」を「F#m7-B7」の【Ⅱ-Ⅴ】に分割します。
そこでこのように解釈できるというわけです。
これは「F#m7」では「F# Dorian」と言いましたが、「B7」では「B Mixo-Lydian」を使うという考え方です。
「F#Dorian」と「B Mixo-Lydian」は全く同じ構成音です。
というわけで「F# Dorian」だけを使ったと考えても問題ありませんし、そちらのほうが簡単でわかりやすいと思います。
ようするに元のコードの半音上の「Dorian」を使うということです。
「Dorian」はマイナー系のスケールですが、勘のいい人なら半音上のマイナースケールといえば「ジャズマイナースケール (メロディックマイナースケール上行)」が思い浮かぶのではないでしょうか。
「ドミナント7thコード」に「オルタードスケール」を使うというのは、一般的な考え方です。
そして「オルタードスケール」は、半音上の「ジャズマイナースケール」と全く同じ構成音でできています。
「オルタードスケール」は覚えにくいので、その代わりに「半音上のジャズマイナースケールを弾く」と覚えている方も多いのではないでしょうか。
ようするに半音上の「ジャズマイナースケール」を使うということは「オルタードスケール」を使うというのと同じ意味になります。
このように「F Altered」と「F# JazzMinor」は全く同じ音で構成されています。
「ドミナント7thコードに半音上のマイナースケールを使う」というときは、「ジャズマイナースケール」を指すのが一般的なわけです。
しかし今回使うのは「Dorian」です。
「F# Dorian」と「F# Jazz Minor (F Altered)」では音が違います。
「F# Dorian」には「F7」ではもっとも弾いてはいけない「ミ」の音、ようするに「F7」にたいする「△7」が含まれています。
こうなるとスケールアウトと考えるほかありません。
というわけで、このフレーズで使われているのは「F Altered」ではなく、あくまでも「F# Dorian」と考えます。
キーを変えてみる
ではキーを変えてみましょう。
コードは「G7」です。
1、2拍めは【13th】の「ミ」から入り「G Lydian7th」で下行、そして上行します。
3、4拍めは「G7」の半音上の「A♭」をRootとする「A♭Dorian」を使います。
コードは「C7」です。
1、2拍めは【13th】の「ラ」から入り「C Lydian7th」でフレージングします。
3、4拍めは「C7」の半音上の「C#」をRootとする「C#Dorian」を使います。
まとめ
今回は「ドミナント7thコード」におけるフレーズです。
そのコードの半音上の音をRootとする「Dorianスケール」を使うというテクニックです。
「ドミナント7thコード」上で 【△7】を使うことになるので、スケールアウトしているということを理解して使いましょう。
また、今回のフレーズは1小節の間はコードが変わってないにもかかわらず、1、2拍めと3、4拍めのスケールを変えるというのもおもしろいところです。
応用例
では応用例を見てみましょう。
「Key=C」の【Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ】です。
「Dm7」と「G7」は2小節ずつになっています。
「G7」では1小節めが「G Lydian7th」、2小節めでは「A♭ Dorian」を使いました。
サンバっぽい感じにしてみました。
これは「Key=Gm」の【Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ】です。
「D7」の1、2拍めで「D Lydian7th」、3、4拍めで「E♭ Dorian」を使いました。
「D Lydian7th」の「♮シ」の音が「Key=Gm」ではかなりのアウト感を出します。
さいごに
というわけで今回は、Mulgrew Millerのワンフレーズを紹介しました。
紹介したフレーズは16分音符や6連符主体でテクニカルなフレーズでしたが
「ドミナント7thコードのときに半音上のDorianを使う」
という点においてはかなり応用できると思うので、ぜひ試してみてください。
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